【材料・分子システム化学領域】色ではなく、構造で白くする 自然に学んだ、白さと撥水性を生み出す新しい材料技術
京都大学アイセムス(高等研究院 物質―細胞統合システム拠点)のイーサン・シバニア教授が率いる研究チームは、自然界が生み出す「鮮やかな白さ」と「水をはじく性質」を、二酸化チタン顔料やフッ素系コーティングを使わず、発泡構造により実現する新しい技術を開発しました。本成果は、より持続可能な包装材、印刷材料、繊維材料の新たな可能性を拓くものとして、9月10日(日本時間)に英国誌Nature に掲載されました。
葛飾北斎の代表作であり、日本を象徴する芸術作品の一つである『神奈川沖浪裏』をよく見てみてください。
波の白、富士山の雪、そして空に浮かぶ雲。その鮮やかな白は、白いインクで印刷されたものではありません。白い部分は、和紙の地をそのまま生かして表現されています。和紙が白くみえるのは、植物繊維が光を散乱するためです。和紙の繊維同様に自然界の雪の結晶、海の泡、雲の水滴はいずれも微細な構造によって光を散乱するため、白く見えます。
泡は、その大部分が空気でできているため非常に軽く、丈夫で、明るい白さを生み出すことができます。こうした発泡構造は、自然界でも広くみられます。海しぶきや植物の組織、さらにはカエルが卵を守るためにつくる泡巣などでは、空気と周囲の物質がつくる無数の界面が、光を非常に効率よく散乱させることで、顔料に頼らずに明るい白さを生み出しています。
本研究チームは、この自然界の仕組みに着目し、白色材料と撥水材料が抱える課題を同時に解決できる、新しい発泡材料プラットフォームを開発しました。
現在、白色の包装材、フィルム、コーティングなどでは、明るさや不透明度を得るために二酸化チタン(TiO₂)が広く使われています。二酸化チタンは非常に優れた白色顔料ですが、安全性への懸念から、欧州連合(EU)では食品添加物としての使用が禁止されています。一方、水や油をはじくために広く利用されてきたPFAS(有機フッ素化合物)についても、その高い残留性や環境・健康への影響に対する懸念が高まっており、世界各地で代替技術の開発が進められています。
そこで研究チームは、東京都立大学、東華大学の研究者とともに、自然界の泡と同じように光を散乱させる多孔質構造によって生み出される白さと、ハスの葉のような高い撥水性を一つの製造プロセスで実現できる技術を開発しました。この技術では、光照射と弱溶剤処理だけで微細な多孔質が形成されます。光によってポリマーが小さな分子断片に分解され、これらの断片が溶媒と相互作用することで材料が膨潤し多孔質の発泡構造が生まれます。この構造が光を強く散乱するため、顔料を使わなくても高い白色度が得られます。さらに条件を適切に制御すると、表面に極めて細かな凹凸が生まれます。この凹凸は、ハスの葉のような自然界の表面構造を模倣したもので、高い撥水性を発揮します。光で構造が出来るということは、印刷プロセスにも適用できることを意味します。本研究チームは20,000 DPIという超高解像度で微細構造の形成に成功しました。その結果、構造による白色化と水との相互作用の制御を同時に実現する、新しい印刷材料プラットフォームが生まれました。しかも、二酸化チタンもPFASも必要としません。
本研究チームは、この技術をDeep Foam Photolithography(DFP:ディープ・フォーム・フォトリソグラフィー)と名付けました。
また、中国を代表する繊維科学・工学の研究機関の一つである東華大学の繊維研究者と共同で研究を行い、このプロセスが印刷可能なポリマーフィルムだけでなく、繊維・布地にも適用できることを実証しました。さらに重要なのは、このプロセスのためにまったく新しい特殊化学物質を開発する必要がないことです。すでに複数の市販ポリマーを用いて、この技術が実現できることを確認しています。この技術は、印刷、包装、繊維などの分野に新たな可能性をもたらすことが期待されます。より軽量な材料の実現や、鉱物由来の顔料、環境中に長く残留するフッ素系化学物質への依存低減につながる可能性があります。
顔料や残留性の高い化学コーティングを加えるのではなく、材料そのものの物理的な構造によって、色や表面機能を生み出す。
このアプローチは、色や機能を「化学」ではなく「構造」で生み出す、新しい材料設計の考え方を提示します。
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研究者情報
- Sivaniah, Easan 京都大学教育研究活動データベース
書誌情報
| タイトル | Foaming Photopolymers as a High-Resolution Biomimetic Printing Platform(⽣物構造を模倣した⾼解像度印刷基盤としての発泡性フォトポリマー) |
| 著者 | Detao Qin, Xianghui Liu, Baian Kuang, Yuzhe Zhang, Masateru Ito, Tatsuya Katsuno, Yuan Liu, Jianduo Zhang, Claudia Rosa, Meifang Zhu, Mikihito Takenaka, Hiroshi Imahori, Ganesh N. Pandian, Taiki Yanagishima, Easan Sivaniah |
| 掲載誌 | Nature Communications |
| DOI | 10.1038/s41586-026-10968-9 |
| KURENAI |
